固体NMRによるアルミニウム化合物の解析技術

窒化アルミニウムなどのアルミニウム化合物は工業的用途が広く、電子部品、発光素子、触媒などへの需要があります。
 
アルミニウム化合物の構造解析には、X線回折法などが一般的に用いられますが、比較的軽い元素から構成される化合物の場合、個々の元素の配位数とその割合を決定することは困難な場合があります。
 
固体27Al NMR法を用いると、結晶・非晶を問わず、骨格構造、配位数などの情報を得ることが可能です。以下では、固体NMRを用いて窒化アルミニウム微粒子を分析した事例を紹介します。

適用事例:窒化アルミニウム微粒子と水の反応解析

窒化アルミニウムは、絶縁性や熱伝導性が高い「窒化物セラミックス」として、放熱板などに広く使われています。また、樹脂などの熱伝導性を高めるため、充填剤として用いられる場合もあります。
 
窒化アルミニウムは、化学的に安定な物質で、一般的な酸 (塩酸・硫酸・硝酸など) や塩基には溶解しませんが、粉末状態では雰囲気中の水と容易に反応し、
 
  AlN + 3 H2O → Al(OH)3 + NH3
 
という反応が生じます。このため、粉末の場合には、乾燥吸気中や高純度窒素ガス中で保管するなど湿度の管理が必要です。
 
固体27Al NMR法では、サンプルの湿度を制御しつつ、アルミニウムの化学状態の変化をとらえることが可能で、窒化アルミニウムと生成した水酸化アルミニウムを簡便に定量評価することが可能です。

粒子径が10μmと100nmの2種類のAlN粉末を用意し、それぞれを湿度の異なる2つの条件下に置き、雰囲気中の水と一定期間反応させ、各試料から得られた固体27Al NMRスペクトルを図1に示します。
 
粒子径が小さく、湿度が高い条件下に置かれた試料のほうが、窒化アルミニウム (4配位) から水酸化ナトリウム (6配位) へ変化する割合が高くなることが確認できました。

窒化アルミニウム微粒子と水との反応後の固体27Al MAS NMRスペクトル

また、固体NMRスペクトルのピーク面積比より反応度合いを見積ることが可能です。それぞれの試料の成分の組成比を定量した結果を表1に示します。
 

表1 窒化アルミニウム微粒子と水との反応後の組成比の定量結果 (mol%)
  粒子径状態 AlN
4配位
Al(O)3
6配位
Al
金属
低湿度 10μm 100 0 N.D.(< 0.1)
100nm 97 1 2
高湿度 10μm 44 56 N.D.(< 0.1)
100nm N.D.(< 0.1) 99 1

上記に加え、粒子径100nmの試料からは図2に示すような1640ppm付近に金属アルミニウム由来のピークがわずかに検出されました。

窒化アルミニウム微粒子と水との反応後の固体27Al MAS NMRスペクトル(1600ppm付近拡大図)

これは、出発原料である金属アルミニウム粉がわずかに残存しているためであると推察されます。このことから、この窒化アルミニウムが下記の反応式 (直接窒化法) から合成されていると推定できます。
 
  2Al + N2 → 2AlN
 
このように固体NMR法は、アルミニウム化合物の構造解析や組成比の定量解析に有効です。ぜひご活用ください。

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