PFG-NMR法を用いることで電解液中のイオン、溶媒分子の拡散係数を測定することができます。電極内に含まれる電解液中のイオンの拡散機構を解析することが可能です。
日産アークでは、これまでセパレータなどの細孔内における電解液拡散係数測定で培った実績とノウハウを活かし、実際の電池に近いリチウムイオン二次電池用合剤正極中での拡散挙動の解析をご提案します。細孔内の制限された空間を動くイオンの拡散係数や細孔の情報がわかります。
【目次】
1.PFG-NMRによる自己拡散係数測定原理
2.NMRによる電解液含有合剤電極中のLiイオンの観測
3.画像処理による電極空孔評価との比較
4.Liイオンの自己拡散係数と拡散時間依存性
5.最後に
1.PFG-NMRによる自己拡散係数測定原理
パルス勾配磁場 (PFG: Pulsed Field Gradient) を印加することで、分子の移動距離 (⇒拡散係数) を調べることができます。
1) 空間的に異なる磁場を加え、NMR信号の強度を測定する
2) 分子が激しく動くほど、スピンが感じる磁場の不均一性が増加する
3) PFGの強度を変えて信号強度の減衰を観測する ⇒ 分子の拡散係数が得られる

2.NMRによる電解液含有合剤電極中のLiイオンの観測
Single-pulse法とSpin-echo法によるNMRスペクトルの違いを下図に示します。
試料
電極 :コバルト酸リチウム+PVDF
電解液:1M LiPF6 EC+DEC
Single pulse:コバルト酸リチウム正極中のLi、および合剤空孔中の電解液のLiスペクトル
Spin-echo pulse:空孔中の電解液のLi信号

3.画像処理による電極空孔評価との比較
パルスシーケンスの工夫や集電箔レス合剤電極の試作技術により、合剤正極内でのLiイオン拡散係数を評価することが可能になりました。PFG-NMRによる拡散時間依存性評価から求めた空間サイズと画像処理により求めた空隙サイズで比較的良い一致が見られました。

試料名 | 最小値 (μm) |
最大値 (μm) |
中央値 (μm) |
平均値 (μm) |
標準偏差 (μm) |
未プレス | 0.53 | 25 | 3.2 | 4.9 | 4.7 |
プレス | 0.53 | 17 | 3.3 | 4.1 | 3.1 |

4.Liイオンの自己拡散係数と拡散時間依存性
バルク電解液と空孔中の電解液の拡散係数の拡散時間依存性を下図に示します。空孔中の電解液で観測された拡散係数の拡散時間依存性は、制限された空間を運動する物質の特徴的な振る舞いです。

5.最後に
PFG-NMR法を用いることで電解液中のイオン、溶媒分子の拡散係数の測定が可能です。
これまでの経験を活かし、実際の電池に近いリチウムイオン二次電池用合剤正極中での拡散挙動、細孔内の制限された空間を動くイオンの拡散係数や細孔の情報を得ることが可能です。