固体高速MAS NMR分析では、難溶性樹脂の一つであるNafion®膜のような電解質膜について、化学構造の同定、各モノマーユニットの組成比算出が可能です。また、磁気的緩和時間(T1, T2測定)より、膜の含水状態の違いや劣化に伴う分子運動の変化を評価することが可能です。
【目次】
1.難溶性ポリマーの固体NMR分析
・高速MAS固体NMR測定
2.19F NMR分析によるNafion®膜の構造・分子運動性解析
・NMRスペクトルのMAS回転速度依存性
・緩和時間と分子運動性
3.最後に
1.難溶性ポリマーの固体NMR分析
フッ素系高分子は、耐熱性や耐薬品性に優れ、低誘電率・低表面エネルギーであるという特徴的な性質から、幅広い用途に使用されています。
フッ素系高分子は、溶媒への溶解性が低いものが多く、MAS (Magic Angle Spinning) 法を用いることで、固体のままで試料を分析することが可能です。これにより、材料が使用されている環境での分析を行うことができます。
高速MAS固体NMR測定
固体NMR測定では、試料を磁場B0に対し54.7°傾けて回転させます。この操作により、不要な相互作用を除去し高分解能スペクトルを取得します。

2.19F NMR分析によるNafion®膜の構造・分子運動性解析
NMRスペクトルのMAS回転速度依存性
代表的なフッ素系高分子電解質膜であるNafion®膜の固体 19F NMRスペクトル図1を示します。高速MASに伴う高分解能化により、個々のピークの帰属が可能となります。
(*Nafion®はケマーズ社の商標です)

緩和時間と分子運動性
NMRで緩和時間を測定する事により、分子の分子運動性を評価できることが知られています。
高含水と低含水のNafion®膜を調製し、-50~+30℃の間で、固体19F NMRによるスピン-格子緩和時間 (T1) を測定しました。主なピークの温度に対する緩和時間を図2に示します。高含水膜と低含水膜では温度に対するT1の変化の挙動が異なり、高分子鎖の分子運動性が膜中に存在する水の量に大きく関係していることが示唆されました。

3.最後に
分子運動性解析は新規電解質膜の分子設計を行うための重要な指針となると考えられます。
電解質膜の構造と分子運動性の解析により、膜の劣化によって起こるポリマーの構造と分子運動性の変化なども評価できます。
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