固体NMR法は、非破壊で測定でき、固体の化学情報を固体状態のままで引き出せるところに大きな利点があり、古くからゼオライト等の構造解析に活用されてきました。
以下では、固体29Si NMR法、および固体27Al NMR法を用いたゼオライトの構造解析について解説します。
【目次】
1.固体NMRのゼオライトへの適用
2.29Si NMR法による構造解析
3.27Al NMR法による構造解析
4.最後に
1.固体NMRのゼオライトへの適用
ゼオライトは、結晶中に微細孔をもつアルミナケイ酸塩の総称です。その細孔内に選択的に分子を取りこみ、反応させることができるため、触媒や吸着剤として多方面で利用されています。
ゼオライトに関して、固体NMRから得られる情報を表1に示します。
得られる情報 | 利用される主な核種 | 測定状態 | |
構造(サイト) | 骨格情報 | 29Si, 27Al, 31P, 71Ga, (11B, 51V)*1 | ex-situ |
イオン交換サイト | 23Na, 7Li, 133Cs, 63Cu, (109Ag) | ||
SDAの挙動 | 13C, (15N, 19F) | ||
細孔サイズ | 129Xe | ||
酸性質 | ブレンステッド酸 | 1H | in-situ |
ルイス酸点 | 31P, (15N) | ||
触媒反応機構 | 吸着種、中間体 | 13C, 1H |
汎用的な例のみをまとめてありますが、一次元NMRスペクトル以外にも、核スピン間の相関観測を目的とした二次元NMRの利用など、新たな手法の応用も進められています。
2.29Si NMR法による構造解析
29Si NMR法によって得られる局所的な構造環境に関する知見には次の項目が挙げられます。
a) 縮重度 (Q0~Q4の決定)
b) 結晶学的に異なるSiサイト数の決定
c) 結晶強度の和やSi-O-T (T=Si, Al)結合角など構造パラメータの推定
d) SiO4四面体に隣接するAlO4を持った分子種(Si(OAl)n(OSi)4-n, n=0~4)
(ただし、Si(OAl)nは、O原子を介してn個のAlと結合しているSiを表す)
e) 骨格中のSi/Al比の決定
特にアルミノケイ酸塩の触媒機能は、骨格中のSi/Al比と関係があり、この比率を求めることが重要です。これをNMR以外の分析法では求めることが難しく、固体29Si NMR法が有効な分析手法となります。

3.27Al NMR法による構造解析
27Al核は、I=5/2の半整数スピン核 (四極子核) であることから、二次の核四極子相互作用を持ちます。詳細な解析を行うためにはその消去が必要になります。このような半整数スピン核には、MQ MAS法が有効です。
解析事例として、シリコンアルミノリン酸塩のMQ MAS NMRスペクトルを図2に示します。
F2(σ2)軸の低磁場から4配位、5配位、6配位のピークが検出されました。F1(σISO)軸に着目すると、4配位のAlについては線幅の狭いスペクトル (AlTET-a) と線幅の広いスペクトル (AlTET-b) が観測されており、一元スペクトルでは判別のできなかった2種類の4配位Alの存在を確認することができました。

4.最後に
固体NMR法は、非破壊で測定ができ、固体固有の化学情報を固体状態のままで引き出せるところに大きな利点があります。試料が非晶質でも観測核回りの短距離秩序をみることができる点が、X線回折法 (XRD) などにはない特徴のひとつです。
温度・湿度・雰囲気などの制御を行いながら、結合様式、配位数に関する情報を得られる固体NMRを活用ください。