全固体電池のハーフセル作製技術を用いた劣化解析

1.はじめに

近年、次世代の二次電池として全固体型リチウムイオン電池の開発が盛んに行われており、さらなる耐久性向上のため耐久試験前後における劣化解析の需要が高まっています。
液系リチウムイオン電池では、正極および負極を分離したハーフセルによる評価が広く適用されており、劣化要因を切り分けた解析が可能です。一方、全固体電池では正負極を容易に分離できないためハーフセル評価が困難とされており、劣化要因の切り分けができない状況でした。日産アークでは、この課題を解決するために精密切削加工によるハーフセル作製技術を開発しました。ここでは、全固体電池の劣化要因の切り分けと、サイクル試験に伴う劣化現象を解析した事例を紹介します。

2.硫化物系全固体電池の試作・評価

まずは、全固体電池のサイクル試験のため、ラミネートセルを試作しました。今回のセルは、混錬・塗工・プレス・セル組みの湿式塗工プロセスで作製しました。材料系としては、正極活物質にニオブ酸リチウムをコートしたNMC631を、負極活物質に人造黒鉛を用いて、固体電解質 (SE) はアルジロダイト型硫化物系固体電解質を使用しました。

作製したラミネートセルを25℃、0.05Cで充放電・インピーダンス測定を行ったのち、60℃、0.3C充放電のサイクル試験を行いました。サイクル後の性能確認のため、再び25℃、0.05Cで充放電・インピーダンス測定を実施しました。初回充放電後のセルを初期品とし、サイクル試験は100サイクルまでと200サイクルまで行いました。

放電容量維持率のサイクル依存性から、急激な変化のない連続的な容量低下が確認できました。また、各試験後の25℃、0.05C充放電測定結果からは、100サイクル品では46%、200サイクル品では28%までの容量低下が見られ、25℃インピーダンス測定結果からは、100サイクル品で約8倍、200サイクル品で約20倍の抵抗増加が確認されました。

3.精密切削加工によるハーフセル作製技術

このような劣化現象に対し、劣化要因を切り分けるために正極および負極を分離したハーフセル作製を行います。まずは、大気非暴露環境下に導入されたサイカスにより単極の切削分離回収を行います。その後、回収した電極を作用極、対極をIn-Liとした圧粉型ハーフセルを作製します。正極および負極それぞれに対し同様の工程でハーフセルを作製します。

4.ハーフセル評価と劣化現象の考察


ハーフセル評価結果




本手法により作製したハーフセルについて、25℃、0.05C充放電およびインピーダンス測定を行いました。正負極のハーフセル評価結果から、サイクル劣化に伴う正極の抵抗増加 (黄矢印) と正負極の残容量増加 (緑矢印) が認められました。

正極抵抗については、特に初期から100サイクルにかけて顕著に増加しており、その後200サイクルにかけてわずかに上昇する様子が見られました。一方で、負極側では容量低下および抵抗増加はほぼ見られませんでした。主に正極側で劣化が進行していることが示唆されます。
【関連記事】
全固体電池のラミネートセル試作評価 (F528).
全固体電池のセル試作・評価 (F599).




ハーフセル評価における残放電容量の解釈





残放電容量の増加については、従来の液LIBとは異なる挙動を示しました。
液LIBでは一般的に正極のみに残放電容量が見られ、これは主に負極表面におけるSEI形成によるLiの固定化に起因します。正極に戻れないLiが生じていることから残放電容量が増加すると考えられています。
一方で、全固体電池では正極と負極どちらも同等の残放電容量があり、放電末において、負極中にLiが存在し、正極ではその分が戻ってきていない状態が推測されます。そして、それらはハーフセル評価の際には可逆であることが示唆されます。

これは、サイクルに伴う物理劣化により放電しきれないLiが増加したことに起因すると推測されます。ここでいう物理劣化とは、空隙などの物理構造に起因する劣化のことを指します。この物理劣化が正極・SE層・負極のいずれかで発生した際には、正負極同等に放電しきれないLiが生じると考えられます。

また、正負極で同等にハーフセルの残容量が得られる要因としては、ハーフセルの作製条件が影響していると考えられます。サイクル試験中のフルセル拘束圧は約3MPaなのに対し、電極切削回収後に300MPaでの成型および約100MPaの拘束圧でハーフセル評価を行っています。より高圧な再プレスにより物理劣化をキャンセルされ、抵抗が減少したと考えられます。そのため、放電しきれないLiが動けるようになり、正負極同等の残容量が得られたと推測されます。



ハーフセル評価結果から推測される劣化現象の仮説





以上のことから、ハーフセルの充放電曲線から化学劣化を、残放電容量から物理劣化を議論できると仮定し、推測される劣化現象の仮説を立てられます。
ハーフセルの充放電曲線における抵抗増加の傾向から、正極で化学劣化が進行し、初期から100サイクルにかけて大きく増加、200サイクルにかけて若干増加していることが推測されます。
一方、残放電容量の増加傾向から、サイクル数が増すにつれセル内部の物理劣化が進行していることが推測されます。



5.硫化物系全固体電池の劣化解析

正極の化学劣化としては、充電過程における正極層SEの酸化分解や、正極層SEの他部材からの酸化・NMCの還元などによる変質が推測されます。特に、SE変質成分の存在により、Li伝導性の低下や界面抵抗の増大、また容量の低下が起こると推測されます。
物理劣化現象としては、充放電に伴う部材の膨張収縮によるクラック形成が推測されます。

正極の化学劣化については、正極層SEおよびNMCのLi消費をICP、正極層SEの変質をXPS、NMCの価数低下をXASにて分析を行いました。また、物理劣化については、電気化学的には正極・SE層・負極のどこで劣化が起きているかまでは切り分けることができませんでしたが、セル各層での断面SEM観察にて劣化箇所の特定を試みました。
※ 以下に示す分析結果はフルセル放電末の状態で、ハーフセルによる電位調整は行っておりません。

硫化物系全固体電池の劣化現象と分析手法/前処理方法
劣化分類劣化現象分析手法前処理方法
化学劣化正極層SEおよびNMCのLi消費ICP切削回収+溶媒抽出
正極層SEの変質XPS斜め切削
NMCの価数低下XAS斜め切削
物理劣化セル各層におけるクラックの形成SEM切断+クライオCP加工


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全固体電池解体分析のための大気非暴露切断・切削加工処理 (F536).




誘導結合高周波プラズマ発光分光分析 (ICP-OES) による正極層SEおよびNMCのLi消費量


まずは正極層内のLi消費量をICP分析にて定量しました。
正極層のみを切削回収し、その回収物を分析サンプルとしました。なお、正極層内ではNMC由来のLiとSE由来のLiが混在するので、SE由来のLiを定量評価するため追加の前処理として溶媒抽出を行いました。溶媒抽出液をSE由来、抽出後残渣をNMC由来として各元素定量を行いました。
試料間の相対比較のために、SEはP量に対するLiのmol比で、NMCはNi、Mn、Coの総量 (Me=Ni+Mn+Co) に対するLiのmol比で定量評価をしました。
SEのLi/P比は初期から100cycで減少し、さらに200cycでも減少する傾向が観測されました。SE変質 (酸化) によるLiの消費が示唆されます。また、NMCのLi/Me比もサイクル増加に伴い減少しており、放電しきれないLiの増加 (物理劣化) やNMCの構造変化 (化学変化) が示唆されます。
【関連記事】
ICP-OESによるLIB正極活物質成分の定量分析 (LIB023).




X線光電子分光 (XPS) による正極層SEの酸化成分分析


XPSは表面数nm領域における元素の状態分析を調べることができます。全固体電池分析において、安定的に正極表面を出すことはこれまで困難でしたが、斜め切削法により安定的にXPS測定を行える面を出すことが可能となりました。
SE成分であるSおよびPの2pスペクトルから、初期に比べ100cycおよび200cycではSEの酸化分解成分であるP2SxやS、酸化成分であるPOxの割合が増加していることがわかりました。これは、上述の化学劣化の傾向と良い一致を示しております。これら変質成分の存在により、正極の抵抗増大が引き起こされたと推測されます。
【関連記事】
全固体電池の斜め切削XPSによるSE変質成分の評価 (F530).




軟X線吸収分光 (XAS) によるNMCの価数評価


軟X線領域のX線を用いることで、遷移金属L吸収端におけるエネルギーシフトから価数評価ができます。特に全電子収量法 (TEY) は表面敏感であるため、劣化の影響を受けやすい活物質表面における価数変化を調べることができます。なお、XASにおいても測定面は斜め切削法により作製しました。
ここでは、Liの挿入/脱離に伴う価数変化の影響がない (少ない) MnおよびCoのL吸収端 (TEYモード) を示します。Mn、Coともサイクル数によるスペクトル形状の変化は見られませんでした。NMCでは劣化が進行すると表面にNaCl型構造を有するMnO、CoO、NiO等が観測されますが、今回はそのような結晶構造変化を伴う活物質の劣化は起こっていないと推測されます。

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リチウムイオン電池 正極の劣化解析 (2) 表面の価数評価・CEI組成分析 (F616).
リチウムイオン電池のリサイクルと分析・解析技術 (H009).




走査電子顕微鏡 (SEM) によるセル各層におけるクラック形成の観察


物理劣化の確認のため、セル全層の断面SEM観察を行いました。なお、硫化物系固体電解質は水分によって変質し、さらに熱に弱いという性質を持つため、ダメージを低減した断面作製には大気非暴露かつクライオでのCP加工が必須です。
どの層においても、サイクル劣化に伴う明確なクラックの形成は観察されませんでした。SEMのオーダーでは観測できない、より微小なサイズの固-固界面の物理劣化が生じている可能性が考えられます。
コンダクティブAFMを用いた導電マッピングによって、固-固界面の電気抵抗から物理劣化の評価を実施する予定です。

6.まとめ

精密切削技術を用いたハーフセル評価により劣化要因の切り分けが可能となりました。
ハーフセル構造の特性を活かして、充放電曲線で見られる抵抗増加から正極の化学劣化 (SE酸化) が、残放電容量の増加からセル内部の物理劣化が生じていることを評価することができました。さらに、各種分析を行うことで、どのような反応・現象が起こっているのかを解析することができます。

日産アークでは、劣化解析のみならず全固体電池作製の各工程において役立つ分析技術を取り揃えております。分析・試作評価のご相談などございましたら、お気軽に下記フォームよりお問い合わせください。


【本記事に関連する対外発表実績】
「硫化物系全固体電池のハーフセル作製技術を用いた劣化解析」
 髙坂 晋平 他:第66回電池討論会 (2025.11) .

「硫化物系全固体電池のハーフセル作製技術を用いた劣化解析」
 髙坂 晋平:株式会社AndTech webセミナー 硫化物固体電解質 全固体電池 評価・解析 (2026.3) .

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