高分子材料における品質トラブルと原因究明 ~破損・破壊編~

1.高分子材料の代表的な品質トラブル

高分子材料は、軽量で加工しやすく、耐食性に優れることから、自動車・電気・建築・医療など、幅広い分野で利用されています。一方で、材料特性や加工条件、使用環境の影響により、さまざまな品質トラブルが発生する可能性があります。代表的な品質トラブルと発生する現象を以下に示します。
不具合分類と発見される現象
不具合分類発見される現象 (不具合モード)
破損・破壊■ 割れる・欠ける (脆性破壊・疲労破壊・環境応力破壊・衝撃破壊)
変形・寸法異常■ 変形する (熱変形・クリープ変形)
■ 寸法が出ない (成形収縮異常)
■ 反る (配向変形・内部応力変形)
外観不良■ 白化する (応力白化・クレーズ)
■ 黄変する (色変化)
■ 色が合わない (色差)
■ 剥がれる (界面剥離・塗膜密着不良)
■ 異物状欠陥・黒点がある (異物欠陥・ゲル欠陥・炭化物)
密封不良■ 漏れる (シール不良・クラック漏れ)
異音・摺動不良■ 異音がする (スティックスリップ・摩耗)
揮発・析出■ 臭いがする (VOC放散)
■ 曇る (フォギング)
■ ベタつく・粉を吹く (ブリード・ブルーム)


これらの不具合は、材料選定・成形条件・設計・使用環境など、複数の要因が複雑に絡み合って発生します。そのため、発生した現象を正しく分類し、考えられる要因について仮説を立て、検証を重ねながら原因を特定することが、品質改善や再発防止には重要です。

2.高分子材料の破損における破面解析の有効性

破損・破壊は、製品の機能や信頼性に大きく影響する重要な品質課題です。高分子材料の破壊には、脆性破壊・環境応力破壊・疲労破壊・衝撃破壊などがあり、それぞれ異なるメカニズムで発生します。破壊後の破面には、亀裂の発生や進展過程を反映した特徴が現れるため、破面観察は破損原因を究明する上で有効な手法となります。破面形態を評価することで、破壊モードを推定し、原因究明に向けた重要な手がかりを得ることができます。代表的な破壊モードについて、その発生メカニズムと破面形態の特徴を示します。
破壊モードと発生メカニズムおよび破面形態の特徴
破壊モード発生メカニズム破面形態の特徴
延性破壊高温・低ひずみ速度・過大変形フィブリル化・ネッキング・せん断リップ・粗い破面
脆性破壊低温・材料劣化・高結晶化・応力集中ミラー領域・リバーマーク・ハックル・平坦破面
環境応力破壊残留応力・応力集中+薬品・溶剤クレーズ・白化・ミラー領域・脆性的亀裂進展
疲労破壊繰返し荷重・振動・応力集中ビーチマーク・ストライエーション・最終破断部
衝撃破壊落下・衝突・急激な荷重放射状模様・シェブロンマーク・引き裂き痕


一方で、破面形態だけでは原因を特定できない場合もあります。同じような脆性的な破面を示す場合でも、材料劣化・成形時の残留応力・応力集中・使用環境など、異なる要因によって発生する可能性があります。特に高分子材料では、使用環境や経年変化による劣化によって延性や靭性が低下し、本来であれば耐えられる荷重でも脆性的に破壊する場合があります。そのため、破面観察による破壊状態の把握に加え、材料の劣化状態・使用環境・使用履歴などを総合的に評価することが、破損原因の究明には重要です。

3.使用環境に起因した破損解析の事例

ここでは、使用環境に起因した破損解析の事例をご紹介します。テレビ用電源コンセントにおいて、被覆材表面に亀裂が確認されました。特にプラグ根元部に集中しており、曲げが作用しやすい部位であることが特徴です。外観観察の結果、被覆材は破断し、内部の銅導体 (Cu線) が露出しており、感電や短絡につながる危険な状態であることが確認されました。
被覆材表面の亀裂

破損部の表面および破面観察


被覆材表面には亀甲状の亀裂が確認されました。この亀裂形態は、環境劣化によって生じる典型的な特徴です。また、破面の拡大観察では、ゴム材料が脆化している様子が確認されました。弾性が低下し、脆性的に破壊していることから、材料劣化の進行が示唆されます。これらの結果から、被覆材は外部環境の影響を受け、表面から劣化が進行したものと考えられます。
被覆材表面の亀甲状亀裂

破損部表面の膨潤試験


ゴム材料の化学状態変化を評価するため、膨潤試験を実施しました。破損部表面は被覆材内部と比較して膨潤度が高く、溶剤吸収性の増加が確認されました。この結果から、破損部表面では酸化劣化に伴う分子構造や架橋状態の変化など、ゴムの化学的劣化が進行していることが示唆され、内部よりも劣化が進行していると考えられます。
膨潤試験結果
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破損部表面のフーリエ変換赤外分光法 (FT-IR)


次に、FT-IRにより破損部表面の劣化状態を評価しました。破損部表面と被覆材内部 (イニシャル) の赤外吸収スペクトルを比較した結果、表面ではO-H基およびC=O基に由来すると推定される吸収ピークの増加が確認され、ゴムの酸化劣化に伴う化学変化が示されました。

一方、被覆材内部では炭酸カルシウムやケイ酸塩 (タルク) などの無機充填剤に由来するピークが主に確認されました。また、表面では硫黄系添加剤やステアリン酸亜鉛に由来すると考えられるピークが強く確認され、添加剤成分の表面移行 (ブリード) が発生している可能性が示唆されました。
破損部表面の劣化状態評価
以上の結果から、破損部表面では以下の変化が進行していると考えられます。
・ゴムの酸化劣化
・添加剤成分の表面移行 (ブリード)
・ゴム組成や架橋状態に関わる変化

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まとめ

本事例の破損要因は、使用環境による劣化と設置状態による機械的負荷が複合的に作用した結果と推定されます。光や熱の影響により被覆材表面の酸化劣化や脆化、添加剤成分の移行 (ブリード) が進行し、微細な亀裂が発生しました。その後、コンセントの固定状態に起因する曲げ応力が繰り返し作用することで亀裂が進展し、最終的に破断に至ったと考えられます。

高分子材料の破損原因は、材料特性、使用環境、機械的負荷など、複数の要因が複雑に関係していることが少なくありません。そのため、破面観察だけでなく、材料分析や劣化評価などを組み合わせた総合的な解析が、原因究明と再発防止には重要です。高分子材料の破損や品質トラブルでお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。




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