XPS (X線光電子分光法) による表面分析をわかりやすく解説

X線光電子分光法 (XPS: X-ray Photoelectron Spectroscopy) を用いた表面分析をわかりやすく解説します。XPSを用いることで試料表面に含まれる元素の種類や組成・化学結合状態などを調べることが可能です。

X線光電子分光法のなかでも、エネルギーの高い硬X線を用いた光電子分光は、硬X線光電子分光法 (HAXPES) と呼ばれます。

【目次】
 1.XPSとは
 2.XPSの原理
 3.XPSでわかること
   - 定性分析 (ワイドスペクトル)
   - 化学結合状態 (ナロースペクトル)
   - 深さ方向分析 (デプスプロファイル)
   - 高エネルギー線源を用いた分析 (HAXPES)
 4.XPSの仕組み
 5.分析事例
 6.保有装置
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1.XPSとは

X線光電子分光法 (XPS) は、試料の表面にX線を照射し、試料から生じる光電子のエネルギーを測定することで、試料表面に含まれる元素の種類や組成・化学結合状態などを分析する手法です。


XPSでは以下のことが可能です。
・水素とヘリウムを除くすべての元素を検出すること
・試料に含まれる元素の種類だけでなく組成、化学結合状態などを分析すること
・表面敏感な手法として試料の表面から深さ5nm程度までの情報を検出すること

XPSでは、固体の試料であれば、ほとんどのものを分析することが可能です。ただし、測定を超高真空状態で行う必要があることから、液体やガスの分析はできません。試料のサンプリングは比較的容易で、−120〜600℃まで、試料の温度を変えながら分析することもできます。

【大気非暴露分析】
大気に触れることで変質してしまう試料は、高純度Ar雰囲気にしたグローブボックス内でサンプリングを行い、トランスファーベッセルを用いて大気非暴露分析を行うことにより本来の状態や形態を調べることができます。

大気非暴露での分析事例:
トランスファーベッセルを用いたLIBの大気非暴露表面の各種分析 (I013)

2.XPSの原理

光電子分光法 (XPS) は、光電効果を利用した手法です。光電効果とは、「物質に光があたると、物質中の電子が飛びだす現象」です。

物質中の電子は、通常は、原子核の引力で束縛されており飛び出しませんが、光が当たることで光からhv のエネルギーを受けて、光電子として物質外に飛び出します。ここで、h はプランク定数、v は光の波長です。

XPSでは、X線を励起源として利用し、飛び出した光電子の運動エネルギーを測定し、エネルギー保存則より物質中の電子の結合 (束縛) エネルギーを求めます。

3.XPSでわかること

XPSでは、試料に含まれる元素の定性分析や化学結合状態がわかります。定性分析にはワイドスペクトル、化学結合状態の分析にはナロースペクトルを用います。また、スパッタと組み合わせることで深さ方向に対する元素分布を調べることも可能です。


定性分析 (ワイドスペクトル)


ワイドスペクトルの例を下に示します。XPSのスペクトルは、横軸に光電子の結合エネルギー、縦軸に計測された光電子の個数をとって表示します。ワイドスペクトルのピークの位置から試料に含まれる元素の同定 (定性分析) ができます。
この試料には、リチウム (Li)、炭素 (C)、酸素 (O)、リン (P)、硫黄 (S)、塩素 (Cl)、臭素 (Br)が含まれることがわかります。

化学結合状態 (ナロースペクトル)


ワイドスペクトルで得られた特定のピークに着目し、ナロースペクトルを取得します。ナロースペクトルの形状の違い、エネルギーの差から元素の結合状態などを調べることができます。
ナロースペクトルを詳細に解析することで、ピークに含まれる元素含有率を解析することもで可能です。

深さ方向分析 (デプスプロファイル)


光電子を検出できる領域は表面からの深さ数nmと非常に浅く、XPSは表面敏感な測定手法です。XPSに、スパッタと組み合わせることで深さ方向の分析が可能です。

アルゴンイオンによるスパッタと測定を繰り返すことで、最表面から数百nmまでの内部の元素定性や組成を調べることができます。
上に示した例では、スパッタ深さ (表面からの深さ) とともに、炭素 (C) の含有率が増え、リチウム (Li)、酸素 (O) の含有率が減る様子がわかります。
 
【低損傷スパッタ】
通常、スパッタにはアルゴンイオンを用いますが、高分子系材料など損傷を引き起こしやすい試料もあります。スパッタにコロネンイオンを用いることで、試料の損傷をおさえた深さ方向分析が可能です。
 
コロネンイオンを利用した低損傷スパッタリングの事例:
低損傷スパッタリングを用いた高分子材料の表面深さ方向状態分析 (F187)

高エネルギー線源を用いた分析 (HAXPES)


ラボのXPSでは、X線源として通常Al を用います。よりエネルギーの高いAg 線源や放射光X線を用いることで、表面からより深い部分の分析やピークの重複を避けた詳細なデータを得ることが可能です。エネルギーの高い硬X線を用いた光電子分光は、硬X線光電子分光法 (HAXPES) と呼ばれます。

4.XPSの仕組み

XPS装置は、試料が置かれる測定槽、試料の電子を励起するX線を発生させるX線源、試料から放出された光電子を検出する半球状の分光器 (静電半球型エネルギーアナライザー) などから構成されます。
XPS装置内は超高真空になっています。これは、試料表面から放出された光電子が分光器に到達するまでに残留ガス分子との衝突による散乱を受けないようするためです。また、超高真空にすることで、試料表面へ残留ガス分子が付着し、表面を汚染することを抑制する効果もえられます。

6.保有装置

日産アークでは、三種類のXPS装置を保有し、各種分析に活用しています。

アルバック・ファイ社製 フルオート多機能走査型XPS装置 GENESIS
主な機能:
- 微小感度走査型マッピング
- デュアルX線源 (Zr, Mg)
- トラストファーベッセルによる大気非暴露測定が可能
- 80 mm角の試料フォルダ
- 試料の最大高さ20mm (40mmホルダー使用時)
アルバック・ファイ社製 多機能走査型X線光電子分光分析装置 Versa Probe Ⅲ
主な機能:
- 4端子対応加熱冷却試料ホルダーによる加熱冷却、電圧印加が可能
- トラストファーベッセルによる大気非暴露測定が可能
- Ar-GCIB
- 最大試料高さ:13mm
- XPSに加えUPS、LEIPESの測定が可能
 【分析事例】
  ・UPS/LEIPSによるバンドギャップエネルギー解析 (F167)
Kratos社製 イメージングX線光電子分光装置 Axis NOVA
主な機能:
- 分解能3μmでのイメージングが可能
- Ag線源によるラボHAXPESが可能
- トラストファーベッセルによる大気非暴露測定が可能
- 試料の最大高さ:16mm

材料分析・解析技術で、お客様と共にイノベーションを実現します

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