高分子材料における劣化メカニズム解析

高分子材料は熱や紫外線あるいはオゾンなどによって劣化することが良く知られていますが、金属との接触によっても劣化が促進されることがあります。ここでは高温雰囲気下で金属 (亜鉛メッキ) と接触し、硬化を起こしたアクリルゴムの劣化機構を分析的に解析した事例をご紹介します。

試料

試料は高温雰囲気下 (約170℃) で使用されていたアクリルゴムシートで、
(a) 亜鉛 (Zn) と接触し硬化亀裂を起こしているもの、
(b) テフロンと接触し硬化亀裂を起こしていないもの、
(c) 新品ゴム
の3点について調査を行いました。アクリルゴムの耐熱性は約170~180℃で耐熱性・耐油性・耐候性に優れたゴムと言われています。

外観観察

写真1にZnと接触し硬化した試料の表面観察結果を示します。写真からわかるように、試料の端部に深い亀裂が観察されます。

また、写真ではお伝えできませんが、Znと接触したゴムは弾性が失われ完全に樹脂化しています。これに対してテフロンと接触していたゴムは亀裂もなく硬化も殆ど認められませんでした。

ゴムの劣化状態

図1に各試料のFT-IR分析結果を示します。使用品には1780cm-1および1700cm-1に酸無水物やカルボン酸と考えられる成分による吸収が認められ、エステル結合の分解が生じていることがわかりました。とくにZnと接触したゴムでは、これらの生成物が多く認められ、劣化がより進行していると考えられました。

Znの状態分析

図2にXPSによるZnの結合状態を分析した結果を示します。測定はZnと接触したゴムの最表面部と、表層から約20μm研削した部分について行いました。Znは最表面では酸化物 (ZnOx) とカルボン酸塩 (COO-Zn) の2つの状態、表層から約20μm研削した部位では酸化物 (ZnOx) の状態で存在していると考えられました。

Znの線分析

図3にEPMAによるZnの深さ方向分析結果を示します。Znは表面から約300μmの深さにかけて検出され、亀裂の深さとほぼ一致していることがわかりました。

劣化メカニズム

図4に分析結果から推定されるアクリルゴムの劣化メカニズムを示します。ここではエステル基の分解により生成したカルボン酸の関与によって、Znおよび酸無水物による分子間架橋を起こした例をあげています。Znは反応を促進させる触媒的な作用以外に、カルボン酸塩の生成のように直接反応にも関与しているものと考えられます。

掲載資料をダウンロードできます。

PDF形式
左のアイコンをクリックすると、別ウインドウで開きます。

資料のダウンロードにはお客様情報の入力が必要となります。

×

分析についてのご相談などお気軽にお問い合わせください。