持続可能な循環型社会を支える触媒の研究開発に役立つ分析・解析技術

日産アークでは、これまで自動車用排気ガス浄化触媒をはじめとし、固体高分子形燃料電池 (PEFC) や固体酸化物形燃料電池 (SOFC) に利用される触媒の分析・解析を行ってきました。

これらの分析・解析技術は、持続可能な社会の実現に向け、すでに研究開発が進められているデバイスや、新たなデバイスの創造において、ますます重要になると考えます。

ここでは、自動車用触媒、PEFC、SOFC等の研究開発で培った分析・解析技術を「分散性」「細孔構造」「表面構造」「動的挙動」「電子構造」「劣化構造」の視点で紹介します。

【目次】
 1.「分散性」の可視化・定量化
 2.「細孔構造」の可視化・定量化
 3.「表面構造」の定量化
 4.「動的挙動」の推定・その場観察
 5.「電子構造」の可視化
 6.「劣化構造」を総合的にとらえる
参考情報:PECF、水電解の研究開発に役立つ分析手法
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1.「分散性」の可視化・定量化

触媒を用いたさまざまなデバイスの性能を向上させるうえで、担持貴金属や助触媒の分散状態を正確に把握することが重要です。サンプルへの損傷の低減した分析技術や有用なパラメータを定量化する解析技術が求められます。


クライオ機能による低損傷解析
正確な元素分布を得るためには、測定中のサンプルの温度上昇にともなう変形や軽元素の分離などサンプル損傷への注意が重要です。断面調製時や観察・分析時にクライオ機能を用いることでこれらの損傷を抑えることができ、本来の元素分布を捉えることが可能です。



関連情報:
Cryo-EPMAによる燃料電池MEAの低損傷断面解析 (D026)


高感度TEM-EDXによる三次元元素分布の定量化
触媒性能の向上や劣化解析において触媒元素の三次元分布を定量的に把握することは重要です。高感度TEM-EDXを用いた形態観察から元素の三次元分布を把握し、触媒性能と関連のあるパラメータを定量化することが可能です。



関連情報:
高感度TEM-EDXを用いた排ガス浄化触媒の三次元解析 (F106)

2.「細孔構造」の可視化・定量化

ガスや液体の移動や反応を伴なう触媒層の性能向上においては、反応場となる細孔やガス・液体の通路となる空孔の連なりなどを把握することが重要です。これには独自に開発した前処理技術や、FIB装置を用いた三次元SEM観察が有効です。


オリジナル技術「MVP法」を用いた細孔・空孔の可視化
日産アークが独自に開発したMVP (Maintenance and Visualization of in-Porous Structure) 法を用いることで、従来の樹脂包埋法や凍結割断法では観察が難しかった微細孔や空隙も明瞭に捉えることが可能です。





関連情報:
オリジナル技術「MVP法」による多孔質材料観察法 (I037)
SEM、TEM観察による触媒の微細孔可視化 (D028)


3D-SEMによる空孔ネットワーク構造の可視化・定量化
集束イオンビーム (FIB) 装置による断面調製と走査電子顕微鏡 (SEM) 観察を組み合わせることで、空孔のネットワーク構造を可視化し、特性を特徴づけるパラメータを定量化することで、トレードオフ関係の把握も可能です。





関連情報:
FIB-SEMによる燃料電池触媒層の空孔ネットワーク構造解析 (D051)

3.「表面構造」の定量化

触媒の担体となる多孔質体や粉末材料の機能性を評価するには、細孔分布、粒度、比表面積など多面的なアプローチが必要です。日産アークでは各種の測定装置を導入し、幅広い範囲の測定に対応しています。


各種分析法による多孔質体・粉末材料の表面性状評価
細孔分布に関しては、ガス吸着法、水銀圧入法によりサブnmから数百μmまでの測定が可能です。粒径分布に関しては、レーザー回折散乱法、動的散乱法、画像処理法によりnmからmmオーダーまでの粒子径測定に対応しています。




関連情報:
多孔質体/粉体の性状分析 (F080)
材料状態に合わせた各種細孔径、粒子径評価技術 (I017)
水銀ポロシメーターによる粉体微粒子の物性測定 (P051)

4.「動的挙動」の推定・その場観察

触媒開発において実際に使用される環境を動的に模擬した評価が必要とされる場合があります。日産アークでは、NMR等を用いた動的特性に関する分析・解析や、放射光施設における動的な化学状態や結晶構造変化のその場観察等もサポートしています。


拡散NMRによる水・プロトンの拡散挙動解析
触媒の開発において、イオン等の拡散挙動を把握することは重要です。触媒が実際に使用される環境に近い温度、湿度条件下で拡散挙動を評価することで、分子拡散のメカニズムを推定し、材料開発をサポートすることが可能です。



関連情報:
拡散NMR法による水・プロトンの拡散挙動解析 (I016)
核磁気共鳴分析 (NMR) 法による高分子材料のダイナミクス解析 (P128)


in-situ XAFSによる化学状態変化のその場観察
XAFSは、試料にX線を照射しその吸収特性から試料の化学状態や結合構造を分析する手法です。反応セルを準備し、ガス雰囲気や環境温度を制御しながら測定を行うことで実際の使用環境条件を再現した動的な評価が可能です。



関連情報:
in-situ XAFSによる高温やガス雰囲気下における触媒の化学状態および構造評価 (F094)
反応ガス雰囲気下における時間分解XRD測定 (F079)

5.「電子構造」の可視化

近年、放射光施設においてコヒーレントなX線を利用することで触媒粒子の電子密度を直接可視化することが可能となっています。日産アークでは、実際の触媒開発等に広く活用できるよう技術開発に取り組んでいます。


コヒーレントXRDによる電子状態の観察
触媒粒子にコヒーレント光を照射し得られた回折パターンにフーリエ変換をベースとした位相回復を繰返し適用することで電子密度の復元を行った事例です。酸化・還元雰囲気による電子状態の変化を比較することも可能です。



関連情報:
次世代放射光施設 「NanoTerasu」 を活用した測定・解析の支援 (F531)

6.「劣化構造」を総合的にとらえる

触媒に限らず劣化メカニズムの解明には、さまざま分析・解析手法を組合せた総合的なアプローチが必要とされます。メカニズム解明をマクロからミクロへ階層的に進める、分析では捉えることが難しい現象に関しては、計算科学の活用が有効です。


劣化構造の総合解析
SEM観察による電極の構造変化、EPMAによる元素分布変化解析に加え、放射光・中性子・第一原理計算などを活用した構造解析を組み合わせることで劣化メカニズムを総合的にとらえることが可能です。




関連情報:
固体酸化物型燃料電池 (SOFC) の劣化総合解析 (D070)

関連情報:PECF、水電解の研究開発に役立つ分析手法

表 燃料電池・水電解の研究開発に役立つ分析技術
電解質膜
水の拡散係数NMR
含水率重量法、NMR
運動性NMR
クラスター構造SAXS
分子量分布GPC
化学構造FT-IR, Raman, NMR, LC-MS, XPS, XAFS
元素組成EPMA
膜厚SEM
膜強度強度試験、SPM
イオン交換容量燃焼IC、ICP-OES、中和滴定
触媒層
元素組成ICP、XPS、EPMA
電子状態XAFS、XPS
貴金属分布TEM、SEM
粒子径XRD、SAXS、TEM、SEM
結晶構造Raman、TEM、XRD
膜厚SEM、TEM
界面構造TEM
セパレータ・GDL
細孔分布水銀ポロシメータ
撥水性接触角
表面処理層厚さAES
表面処理物分布AES、EPMA
表面処理層組成XPS、AES、ICP
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