高分子材料における品質トラブルと原因究明 ~におい編~

1.高分子材料の代表的な品質トラブル

高分子材料は、軽量で加工しやすく、耐食性に優れることから、自動車・電気・建築・医療など、幅広い分野で利用されています。一方で、材料特性や加工条件、使用環境の影響により、さまざまな品質トラブルが発生する可能性があります。代表的な品質トラブルと発生する現象を以下に示します。
高分子材料の代表的な品質トラブル
これらの品質トラブルは、材料選定・成形条件・設計・使用環境など、複数の要因が複雑に絡み合って発生します。そのため、発生した現象を正しく分類し、考えられる要因について仮説を立て、検証を重ねながら原因を特定することが、品質改善や再発防止には重要です。

今回は揮発・析出のなかでも「におい」に着目し、製品から発生する異臭や従来品とのにおいの違いについて、現象を整理し、原因候補を絞り込むまでの調査事例を解説します。

2.においトラブルの原因究明

高分子材料を用いた製品では、原料や添加剤、成形・加工条件、保管・使用環境などの影響によって、異臭の発生や従来品とは異なるにおいが生じる場合があります。また、においは製品の機能に直接影響しない場合でも、商品価値や使用時の快適性を損なう品質トラブルとなることがあります。

製品からはさまざまな成分が揮発しますが、そのすべてがにおいに影響しているわけではありません。そのため、単純な成分分析だけで原因を特定することは難しく、まず官能評価によりにおいの強さや質を整理し、調査目的に応じた方法を選択することが重要です。試料間の違いから原因候補を調べる場合はGC-MSと主成分分析 (PCA) を組み合わせ、異臭に関与する成分を直接調べる場合はにおい嗅ぎGC-MSを活用して、原因を絞り込んでいきます。
においトラブルの原因究明における調査方法

3.試料間の差から原因候補を調査した事例 (天然ゴム製手袋)

ここでは、異なる3社の天然ゴム製手袋について、製品間のにおいの違いと、その原因候補を調査した事例をご紹介します。まず官能評価によってにおいの違いを整理し、続いてGC-MSと主成分分析 (PCA) を組み合わせて、C社品に特徴的なにおいの原因候補を絞り込みました。

官能評価による現象の整理

異なる3社の天然ゴム製手袋をバッグに封入して官能評価を行ったところ、臭気強度はいずれも3でしたが、A社とB社では「輪ゴム臭、埃っぽい」と評価されたのに対し、C社ではこれらに加えて「タイヤ臭」が確認されました。このことから、C社品にはA社・B社品にはない「タイヤ臭」が認められ、製品間のにおいの違いが明確になりました。
試料と臭気官能評価結果

GC-MS+主成分分析 (PCA) による原因候補の絞り込み

官能評価によって製品間のにおいの違いは明確になりましたが、その違いを生じさせる化学成分までは分かりません。そこで、C社品に特徴的なにおいの原因候補を調べるため、3社品から発生する揮発成分をGC-MSで分析し、得られた成分データに主成分分析 (PCA) を適用しました。主成分分析の結果、C社品はA社・B社品とは異なる特徴を示しました。さらに、製品間の違いに寄与する成分を調べることで、C社品に特徴的なにおいの原因候補を抽出しました。

スコアプロットとローディングプロット
解析の結果、C社品の特徴に寄与する成分の中から、タイヤ臭の原因と考えられるベンゾチアゾールが検出されました。官能評価で確認されたにおいの違いと、GC-MSと主成分分析 (PCA) で確認された成分の違いを対応させることで、C社品に特徴的なにおいの原因候補を絞り込むことができました。

【関連記事】
・主成分分析を用いた樹脂製品の臭気分析 (F154).

4.異臭に寄与する成分を直接調査した事例 (ゴム製品)

ここでは、前章の天然ゴム製手袋とは別の事例として、ゴム製品から発生する異臭にどの成分が寄与しているかを調査した事例をご紹介します。

におい嗅ぎGC-MSによる原因成分の特定

通常のGC-MSでは、製品から発生する成分の種類や検出量を調べることができますが、検出量の多い成分が必ずしも強いにおいを持つとは限りません。そこで本事例では、におい嗅ぎGC-MSを用いて、検出された成分と実際に感じるにおいとの関係を調べました。




におい嗅ぎGC-MSの概要
におい嗅ぎGC-MSでは、GCで分離された各成分を機器で検出すると同時に人が実際に嗅ぐことで、どの成分がどのようなにおいを持つのかを対応付けます。ゴム製品を加熱して発生した成分を測定した結果、多数の揮発成分の中から、実際ににおいとして感じられる成分を抽出することができました。特ににおいが強く感じられた成分としてアルキルフェノール類、アルキルナフタレン類が挙げられ、試料と類似したにおいが感じられたことから、これらがゴムの主要臭気要因と推測されます。

5.まとめ

高分子材料のにおいトラブルでは、製品から検出される成分のすべてが実際のにおいに影響しているわけではないため、成分分析だけで原因を特定することは困難です。そのため、まず官能評価によってにおいの特徴を整理し、調査目的に応じた方法を選択することが重要です。試料間の違いから原因候補を調べる場合にはGC-MSと主成分分析 (PCA) を組み合わせ、異臭に寄与する成分を直接調べる場合にはにおい嗅ぎGC-MSを活用することで、原因の絞り込みや再発防止につなげることができます。

日産アークでは、各種分析・解析技術を組み合わせ、異臭の原因究明から正常品・異臭品の比較、材料変更に伴うにおいの変化の評価まで、品質改善や再発防止につながる解析を支援します。製品そのものだけでなく、現地でのにおいサンプリングや大型製品・室内空間を対象としたにおい評価にも対応しています。

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