リチウムイオン電池のリサイクルと分析・解析技術


1.はじめに


カーボンニュートラル (CN) 実現に向けて、リチウムイオン電池 (LIB) においても製造・リファブリケート・リユース・リサイクルまでのライフサイクル全体を通じた持続可能性の確保が課題となっています。

使用済みLIBのリファブリケート/リユース/リサイクルへの選別においては劣化診断を行います。その際、セルの解体分析から有益な情報を得ることができます。また、正極活物質のダイレクトリサイクル工程においても、回復度合いの確認や条件決定に材料分析の技術が必須となってきます。

ここでは、正極に着目し、劣化診断やダイレクトリサイクルに役立つ主な分析技術をご紹介します。

2.劣化診断の重要性

前述の劣化診断をより確実なものにするには、電池の使用履歴や電気化学評価に加え、セルの解体分析による内部状態との紐づけが重要な役割を果たします。

セル全体の性能と複雑な内部状態の関係性は不明確であり、そのため、内部状態のどのような変化がセル全体の性能に影響を与えているか把握する必要があります。
リチウムイオン電池の劣化診断
日産アークでは、電気自動車 (EV) の電池開発支援を通じた豊富な解体分析の経験で、解体から分析まで一括して行える体制を調えております。独自の前処理と複合分析で貴重なサンプルから最大の情報を引き出します。

3.ダイレクトリサイクルの課題

LIBにおいて特に正極材ではLi, Mn, Co, Niなどの重要原材料 (CRM : critical raw materials) が含まれており、使用済みLIB材料の再資源化が求められています。

劣化診断によりリサイクルに選別された電池は分解され、その材料は再資源化されます。

ダイレクトリサイクルは、正極活物質の結晶構造を崩さずに劣化状態を回復する手法であり、従来法のような活物質の再合成工程を含まないため、工程時のコストおよびCO2排出量削減に有効です。このため、カーボンニュートラルへ貢献可能な活物質のリサイクル手法として近年注目されています。

この際、活物質が回復しているかどうかの確認やダイレクトリサイクル各工程の条件決定にも材料分析が必要となります。
使用済みLIB材料の再資源化

4.劣化診断、ダイレクトリサイクルに役立つ分析技術

リチウムイオン電池の充放電に伴う正極の劣化としては、導電パス切れ (電極・二次粒子) や結晶構造の変質 (表面・バルク)、さらには正極被膜 (cathode electrolyte interface:CEI) の成長などが起こると推測されます。それらの状況を以下の手法を用いて把握していきます。

これらの分析手法は、劣化解析のみならず、ダイレクトリサイクル各工程において正極活物質がどの程度回復しているかどうかの確認や条件決定にも役立ちます。

表 LIB正極の劣化診断・ダイレクトリサイクルに役立つ主な分析技術
分析項目分析手法
電解液の回収遠心抽出
単極評価容量測定・インピーダンス測定
二次電子の割れSEM
Li/Me比ICP
結晶構造 (格子定数)XRD
価数 (表面・バルク)XAS
表面劣化層厚みTEM
CEI厚みXPS



セルの電気化学評価・解体観察


市販18650 型リチウムイオン電池 (正極:LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2, 負極:グラファイト) を1C, 25ºCでサイクル試験を実施した結果、300サイクル以降で急激な容量低下・抵抗増大が確認されました。500cyc品を解体観察すると、負極の巻き始め側に析出物が見られました。
セルの電気化学評価・解体観察
このように、劣化が進んだセルにおいては、場所ムラが見られることもあり、それぞれの場所でどのような状態になっているか把握しておくことが重要です。ここでは、正極について、巻き始め側 (inside) と巻き終わり側 (outside) の2箇所で劣化解析を実施した事例をご紹介します。

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単極容量・交流インピーダンス測定


セル解体後の正極を用いてハーフセルを試作し、単極容量測定を実施しました。500cyc品において、insideに比べoutsideで急激な放電容量の低下が確認されました。電極の劣化 (活物質の変質、電極のパス切れなど) が推測されます。
また、交流インピーダンス測定においても、500cyc品のoutsideで急激に円弧が大きくなる様子が観測されました。円弧形状から、特に電荷移動抵抗 (活物質の変質などに由来) の増大が推測されます。
単極容量・交流インピーダンス測定
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リチウムイオン電池の電気化学特性 (電位走査、GITT法) 評価 (F557).



LIB正極活物質の割れ観察


SEM観察から、500cyc品のoutsideで二次粒子の激しい割れを観察しました。導電パスの低下や反応面積の増加による電解液分解の促進が推測されます。画像解析により割れ率を算出することも可能で、指標の一つとして用いることができます。
SEMによるLIB正極活物質の割れ観察
また、SEM-画像解析に加え、空孔率や比表面積などのより平均的な値をおさえておくことも有効です。

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LIB正極活物質のLi/Me比算出 (Me = Ni+Mn+Co)


導電パス切れや結晶構造の変質により活物質が失活すると、Liイオンが正極に戻れない状態になります。Liと遷移金属 (Me = Ni+Mn+Co) の比率をICPにより求めることで、どれくらいの割合でLiが減少したかを把握することが可能です。

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LIB正極活物質の結晶構造解析


XRDにより結晶相の同定と格子定数の算出が可能です。一定量の不活性層が存在する場合はXRDにより検出が可能で、その割合を算出できます。さらに、in-situ XRD法を用いることで充放電過程において変化しない層を明確に可視化できます。

また、NMC正極においては、Liイオンが抜けることで遷移金属酸化物層間の斥力が強まりc軸が伸びa軸が縮むことが知られています。下図の通り、500cyc品のoutsideはinsideに比べc軸が伸びa軸が縮んでいることがわかります。
XRDによるLIB正極活物質の結晶構造解析
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X線回折 (XRD) 法によるLIB正極材の結晶構造解析 (LIB007).
in-situ XRDを用いた正極活物質のリアルタイム結晶構造解析 (F595).



LIB正極活物質の価数評価


軟X線領域のX線を用いることで、遷移金属L吸収端におけるエネルギーシフトから価数評価ができます。バルク領域においては、inside, outsideともサイクル数によるスペクトル形状の変化は見られませんでした。

一方、表面領域では、outsideの500cyc品において矢印で示す低X線エネルギー側のピーク強度が増加している様子が観測されました。これは低価数成分 (主に2価) が増加していることを意味しています。また、ピーク強度比から価数変化を見積もることも可能です。
XASによるLIB正極活物質の価数評価
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in-situ XAFSによるLIB正極活物質の構造解析 (LIB020).



LIB正極活物質の微細構造解析


TEM-EELSでは、数百nmの視野の微細構造観察と状態分析が可能であり、一次粒子形状や価数の評価できます。格子像の観察から、活物質一次粒子の表面にNaCl型構造が存在し、その厚さは500cyc品outsideで他よりも厚い様子が観察されました。
TEM-EELSによるLIB正極活物質の微細構造解析
また、EELS分析では、非常に局所的ですがXASと同等の情報を得ることができます。500cyc品outsideにおいてEELS分析を行った結果、活物質表層のNaCl型構造を示す部分において低価数のMn, Co, Niが存在することが観測されました。
EELSスペクトル
これらのことから、表面のNaCl型構造はMnO, CoO, NiO等と推測されます。電池性能としては、これらが厚く存在することが、リチウムの可逆サイトの減少や、リチウムイオンの伝導パス阻害要因となり、容量低下、抵抗増大につながっていることが推測されます。

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TEM及びEELSを用いた正極活物質の微細構造および価数評価 (F594).
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LIB正極表面のCEI分析


XPSは表面領域におけるLiを含む元素の状態を調べることができます。O 1sスペクトルにおける金属-酸素結合ピーク (約529eV) が活物質に由来し、ピーク強度が低くなるほど正極被膜 (CEI) が成長していることを示します。

insideではサイクル数増加に伴いCEIが徐々に成長していることがわかります。一方で、outsideでは、200cycから500cycの間でCEIが急激に成長していると推測されます (点線矢印) 。

また、500cyc outsideではLiFやLixPFyOzと推測される成分が急激に増加していることがわかります (矢印)。これらの成分は主にLi塩 (LiPF6) の分解に起因すると推測されます。このようなCEIの厚膜化は正極の抵抗増大を引き起こすと推測されます。

5.まとめ

各種分析で示されたように、二次粒子の割れが空隙率の増加や導電パスの減少につながり、さらに活物質の表層では結晶構造の変質やSEIの堆積が起こり、容量低下や抵抗増大につながっていると考えられます。

これらの正極劣化指標を定量的に把握し電池劣化指標との相関を取ることで、より正確なリサイクルプロセスの確立や、より効率的なダイレクトリサイクル工程の決定に役立てることができると考えられます。


【本記事に関連する論文発表】
K. Kubobuchi et al., J. Appl. Phys. 120, 142125 (2016).
T. Baba et al., Electrochemistry 88, 63-68 (2020).


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