ナトリウムイオン電池の分析・解析技術

近年、元素戦略やコストパフォーマンスの観点から、ナトリウムイオン電池 (NIB) の普及拡大が期待され、国内においても市場流通が開始されています。

ナトリウムイオンはリチウムイオンに比べてイオン半径が大きく、電極材料によっては充放電に伴う膨張・収縮が大きくなるため、構造破壊を引き起こしやすいとされています。

このような課題を克服し、長寿命化など性能向上を目指すには、充放電にともなう劣化現象や劣化要因の把握が必要です。

【目次】
 1.日産アークにおけるナトリウムイオン電池評価の取り組み
 2.ナトリウムイオン電池の劣化現象と分析技術
 3.ナトリウムイオン電池の解体観察・単極電気化学特性評価
 4.ナトリウムイオン電池の電解液分析
 5.ナトリウムイオン電池の負極分析
 6.ナトリウムイオン電池の正極分析

1.日産アークにおけるナトリウムイオン電池評価の取り組み

日産アークでは、これまでリチウムイオン電池 (LIB) の解体分析で培ってきた経験を活かし、ナトリウムイオン電池 (NIB) のセル解体分析も実施しています。

外観観察・電圧調整から始まり、LIBで開発した弊社オリジナルのガス・電解液サンプリングなどを経て、解体から分析まで1セルからできるだけ多くの情報を引き出すフローを構築しています。
日産アークにおけるナトリウムイオン電池評価の取り組み
各種分析をシームレスに連携させ、貴重なサンプルから効率的に多くの情報を取得することができます。また、一部の形状のセル試作評価も承っております。

2.ナトリウムイオン電池の劣化現象と分析技術

NIBは、メカニズムの類似性から、LIBとほぼ同じ劣化現象が起こると考えられます。下図に示すような劣化現象を各種分析技術により調査していきます。
ナトリウムイオン電池の劣化現象と分析技術
以下では、正極活物質に層状酸化物 (NaFe1/3Ni1/3Mn1/3O2) 、負極活物質にハードカーボン (HC) が使用された市販18650 型ナトリウムイオン電池についてサイクル試験を行い、解体分析を実施した事例をご紹介します。

3.ナトリウムイオン電池の解体観察・単極電気化学特性評価


セルの電気化学評価・解体観察


市販18650 型ナトリウムイオン電池を1C, 25ºCでサイクル試験を実施した結果、容量低下・抵抗増大が確認されました。セルを解体観察すると、負極上に析出物がみられ、セパレータと負極の固着も確認されました。
セルの電気化学評価・解体観察
▶ 詳細は、ナトリウムイオン電池の解体分析 (F522)



単極容量・交流インピーダンス測定


セル解体後電極を用いてハーフセルを試作し、単極容量測定を実施しました。正極および負極の両方で放電容量の低下が確認されたことから、電極の劣化 (活物質の変質、電極のパス切れなど) が推測されます。

さらに、正極においては残放電容量の増加がみられ、副反応 (被膜成長、電析など) によりNaが固定化されたと考えられます。

また、交流インピーダンス測定から、正・負極ともにサイクル数の増加にともなって円弧が大きくなる傾向がみられました。円弧形状から、被膜抵抗 (被膜成長に由来) と、電荷移動抵抗 (活物質の変質などに由来) の増大が推測されます。

4.ナトリウムイオン電池の電解液分析


遠心抽出法によるNIB負極の原液回収


上述の副反応の主要因は電解液分解によるものであるため、電解液の組成変化を調べることは重要です。電解液組成を高精度で分析するため、日産アークでは遠心抽出法による原液回収を実施しています。
遠心抽出法によるNIB負極の原液回収
 

NMRによるNIB電解液の組成分析


1H NMRおよび19F NMRを用いることで、NIB電解液中の溶媒およびナトリウム塩の定量が可能です。サイクル数の増加にともない、エチレンカーボネート (EC) の割合が減少していく様子が観測されました。電池内でECの分解が選択的に生じている可能性が示唆されます。

表 電解液成分の定量結果 (質量%)
試料名ECPCEMCDMCNaPF6*total
初期品8.524114412100
100サイクル品7.723114612100
400サイクル品6.323114713100
表 ナトリウム塩濃度の定量結果 (mol/L)
試料名NaPF6*
初期品0.9
100サイクル品0.8
400サイクル品0.9
* ナトリウム塩として算出
▶ 詳細は、NMRによるナトリウムイオン電池電解液の組成分析 (F534)

5.ナトリウムイオン電池の負極分析

負極上においてNaは、電解液の還元分解や導電パス切れ、電析などにより、SEI (solid electrolyte interface) やHC内Na, 金属Naといった形で固定化されると考えられます。これらの存在状況を以下の手法を用いて把握していきます。
 
分析項目分析手法
Na分布SEM-EDX
表面組成XPS
SEI相対膜厚XPSデプスプロファイル
Na金属定量Na NMRおよびICP
HC内Na定量溶媒抽出中和滴定におけるNaOHのうちNa金属を除くもの
Na2CO3定量溶媒抽出中和滴定
その他SEI成分定量溶媒抽出NMR, IC

SEM-EDXによるNIB負極のNa分布観察


NIBではSEM-EDXによりNa分布が明確に捉えることができます。これは、LIB分析におけるLi分布観察との大きな違いで、副反応生成物の分布状況を把握する上で重要な情報となります。

初期品と比較し、100サイクル品および400サイクル品では、電極表面および活物質間に細かい枝状・粒状の析出物と、Naの分布が確認されました。サイクルにともなうNa金属の析出と、析出Na金属周りでのSEI成長の促進が推測されます。加えて、電極内部においても、周囲よりNa濃度が高い活物質 (HC) の粒子が確認されました。HC内にNaが固定化していることが推測されます。
SEM-EDXによるNIB負極のNa分布観察
▶ 詳細は、クライオSEM-EDXによるナトリウムイオン電池負極のNa分布観察 (F524)



XPSによるNIB負極表面のSEI分析


XPSは表面領域におけるNaを含む元素の状態分析や相対的なSEI膜厚の比較ができます。

XPSデプスプロファイルから、初期品はC含有率が高く、それ以外の元素の含有率が低い様子が観測されました。SEI膜厚は薄いことが推測されます。

一方で、サイクル品は初期品と比較して、Na, O, F含有率が高く、C含有率が低い様子が観測されました。表面分析の結果と合わせると、Na2CO3やNaFといったSEI成分などが堆積していることが推測されます。

Na2CO3はECの還元分解によるものと推測され、電解液分析の結果と良い一致を示します。
XPSによるNIB負極表面のSEI分析
▶ 詳細は、XPSによるナトリウムイオン電池負極表面のSEI分析 (F532)



Na NMRおよびICPによるNIB負極のNa状態定量分析


23Na NMRスペクトルでは、Na金属とその他のNa (SEI・Na塩/化合物・カーボン層間Na) を明確に区別して観測でき、各状態の存在比を知ることができます。

ここにICPによるNa量の定量結果を組み合わせることで、 Na金属とその他のNaの絶対量を算出することができます。

サイクル品ではNa金属が観測され、サイクル数の増加にともないその他のNaも増加する様子が観測されました。
表 NIB負極中の各状態のNaの定量結果 (質量%)
Na金属SEI・Na塩/化合物・カーボン層間Na
初期品03.6
100サイクル品0.85.1
400サイクル品0.78.0
 
▶ 詳細は、Na NMRおよびICPによるナトリウムイオン電池負極のNa状態定量分析 (F525)

抽出NMR・IC・中和滴定によるナトリウムイオン電池負極のNa化合物定量分析


負極上で固定化されたNa化合物は、溶媒を用いて抽出した抽出溶液を中和滴定・イオンクロマト・NMRといった手法で分析することで定量が可能です。

HC内Naについては、中和滴定で測定されるNaOHのうち金属Naを除くものとして定量します。

定量分析の結果、Na2CO3を主としたSEI成分の増加がみられました。電解液分析や電極表面におけるSEM-EDX、XPSの結果と良い一致を示します。また、SEI成分の増加とともに、HC内Naの増加もみられました。SEM-EDXで観測されたNa濃度の高い活物質の存在と対応すると考えられます。
抽出NMR・IC・中和滴定によるナトリウムイオン電池負極のNa化合物定量分析

6.ナトリウムイオン電池の正極分析

上述の通り、ナトリウムイオンはリチウムイオンに比べイオン半径が大きいため、充放電にともなう構造破壊が起きやすいと言われており、正極もその影響を受けることが考えられます。

これにより、導電パス切れ (電極・二次粒子) や結晶構造の変質 (表面・バルク)、さらには正極被膜 (cathode electrolyte interface:CEI) の成長などが起こると推測されます。それらの状況を以下の手法を用いて把握していきます。

 
分析項目分析手法
導電パス切れ (電極)SEM-EDX
導電パス切れ (二次粒子)SEM-EDX
結晶構造の変質 (バルク)XAFS
結晶構造の変質 (表面)TEM-EDX
表面組成XPS
CEI相対膜厚XPSデプスプロファイル

SEM-EDXによるNIB正極活物質の割れおよびNa分布観察


負極と同様に正極でもSEM-EDXによりNa分布が明確に捉えることができます。

導電パス切れの評価において、例えば導電パスが切れてしまった箇所がある場合は、周囲とNa濃度が異なり、Naの偏在がみられると予想されます。

SEM観察から、サイクルに伴う割れの進行は僅かである様子がみられました。EDX分析からはNaの顕著な偏りは確認されなかったことから、導電パス切れにはいたっていないと推測されます。

一方で、サイクルを経るとNa濃度が減少していることが分かります。これは単極評価の正極残容量の増加および負極でのNa量増加と良く対応しており、負極で固定化されたNaが正極に戻らないことによるものと考えられます。
SEM-EDXによるNIB正極活物質の割れおよびNa分布観察
▶ 詳細は、クライオSEM-EDXによるナトリウムイオン電池正極活物質の割れおよびNa分布観察 (F520)



XAFSによるナトリウムイオン電池正極活物質の局所構造解析


X線吸収分光法 (XAFS) を用いた構造解析によって、遷移金属のK 吸収端におけるエネルギーシフトから価数を、pre-edge形状から配位環境を評価でき、局所的な構造を知ることができます。

Fe-K 端において、エネルギーシフト (価数変化) はみられませんでしたが、pre-edgeの形状変化が確認されました。pre-edgeのピークフィッティングにより、Fe四面体配位の割合が増加しており、充放電サイクルによる正極の局所構造変化が明らかになりました。


初期品100サイクル品400サイクル品
四面体配位(%)038
八面体配位(%)1009792
 
▶ 詳細は、XAFSによるナトリウムイオン電池正極活物質の局所構造解析 (F614)

TEM-EDXによるNIB正極活物質の微細構造解析


TEM-EDXでは、数百nmの視野の微細構造観察とそのNa分布観察が可能であり、一次粒子形状と組成情報の評価できます。

明視野像から、400サイクル品では初期品にはみられなかったクラックのような筋状の模様がみられており、回折との比較から (003)面に沿って発生していることがわかります。

加えてEDXの結果から、表面と筋状部でNaの欠損が確認されました。さらにTEM格子像観察により、筋状部ではスピネル型構造と思われる周期性が確認されました。この筋状部でみられたスピネル構造はNaが抜けた構造であり、容量低下や抵抗増大の一因であると推測されます。
TEM-EDXによるNIB正極活物質の微細構造解析
▶ 詳細は、クライオTEM-EDXによるナトリウムイオン電池正極活物質の微細構造解析 (F537)



XPSによるNIB正極表面のCEI分析


XPSは、表面領域におけるNaを含む元素の状態分析や元素の深さ方向分布を調べることができます。

XPSデプスプロファイルから、試料表面付近でNaおよびFの含有率が高い様子が観測されました。表面分析の結果と合わせてNaFの存在が示唆されます。

また、400サイクル品は、試料表面付近のF, O, Mn, Ni含有率が高くなっていることがわかりました。これらの元素を含む広義のCEI成分の生成が推測されます。
XPSによるNIB正極表面のCEI分析

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