元素分析 (元素の定量とマッピング) をわかりやすく解説


元素分析は、試料に含まれる元素の種類やそれらの量や比率を調べる分析です。試料の組成や異物の種類の特定などに活用することができます。元素分析にはさまざまな手法があり、試料の形態や目的に応じた手法を選択することが重要です。ここでは、各種の元素分析手法をわかりやすく解説します。
 

無機元素分析:定量性を重視した手法です。微量元素の定量に活用できます。
 1.誘導結合高周波プラズマ発光分光分析 (ICP-OES)
 2.炭素・硫黄分析 (CS)
 3.燃焼イオンクロマトグラフ (燃焼IC)
 

X線・電子線を用いた元素分析:線分析や面分析 (マッピング) 等が可能な手法です。
 4.蛍光X線分析 (XRF)
 5.X線光電子分光分析法 (XPS)
 6.硬X線光電子分光法 (HAXPES)
 7.オージェ電子分光法 (AES)
 8.電子プローブマイクロアナライザー (EPMA)
 9.エネルギー分散型X線分光法 (SEM-EDX / TEM-EDX)
 10.電子エネルギー損失分光法 (TEM-EELS)
 11.クライオ観察 (溶液・ゲル状の試料を凍結して分析)

 
表1 X線・電子線を用いた元素分析の適用範囲
表面深さ
水平方向
(cmオーダー)(μmオーダー)(nmオーダー)
数nmAES (オージェ分光分析)
XPS (X線光電子分光分析)
数十nmHAXPES (硬X線光電子分光)
1μm
程度
EPMA* (電子線マイクロアナライザー)
SEM-EDX* (エネルギー分散型X線分光)
~数mmXRF (蛍光X線分析)
任意#TEM-EDX* (エネルギー分散型X線分光)
TEM-EELS* (電子エネルギー損失分光)
#) 試料の任意の位置から100nm以下の薄片を採取し分析
*) 溶液・ゲル状の試料を凍結して観察することも可能です。 (クライオ観察)

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誘導結合高周波プラズマ発光分光分析 (ICP-OES)

誘導結合高周波プラズマ発光分光分析 (ICP-OES: Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry) は、溶液中の元素を定量する手法です。
 
溶液化した試料をアルゴンガスによりプラズマ炎まで運び、プラズマの熱で原子化します。励起状態の原子が基底状態に戻る際に、放出される光の波長と強度を測定することで元素の種類を同定・定量します。
 
液体試料を対象とした分析のため、固体試料は溶液化 (分解) の必要があります。

炭素・硫黄分析 (CS)、燃焼イオンクロマトグラフ (燃焼IC)

炭素・硫黄分析 (CS)、燃焼イオンクロマトグラフ (燃焼IC)では、誘導結合高周波プラズマ発光分光 / 質量分析 (ICP-OES / ICP-MS) で測定できない炭素やハロゲンの定量が可能です。

炭素・硫黄分析燃焼イオンクロマトグラフ
概要酸素気流中で試料を燃焼させ、試料中の炭素 (C) を二酸化炭素 (CO2) と一酸化炭素 (CO) に、硫黄 (S) を二酸化硫黄 (SO2) に酸化し、赤外検出器で吸収量を測定します。試料を燃焼分解させることで試料中ハロゲンや硫黄をガス化し、発生したガスを吸収液に捕集します。この吸収液をイオンクロマトグラフ (IC) にて測定します。燃焼させることで固体中の成分も測定することができます。
試料形態粉体、粒粉体、液体
必要試料量数g数g、数ml
対象元素C, SF, Cl, Br, I, S
測定可能濃度数十wtppm~数十wt%数十wtppm~数十wt%
試料例鉄鋼・金属中の炭素・硫黄、
セラミックス中の炭素、
固体電解質の硫黄、導電助剤 等
樹脂中の難燃剤、
固体電解質のハロゲン、
電極中のフッ素系バインダー 等
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蛍光X線分析 (XRF)

蛍光X線分析 (XRF: X-ray Fluorescence) は、試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を分光結晶で分光し、検出器を走査することでX線スペクトルデータを得るものです。得られた回折角や強度の情報から無機成分の定性や含有率を求めることができます。
XRFでは、固体、液体、粉末、合金および薄膜の元素分析が可能です。
 

XRFを用いた分析事例
蛍光X線分析装置 (XRF) の紹介 (F804)
新規導入装置 X線分析顕微鏡 (μ-XRF) の紹介 (F807)
目的に合わせた4種の元素定性分析 (F023)
 
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X線光電子分光分析法 (XPS)

X線光電子分光分析法 (XPS: X-ray Photoelectron Spectroscopy) は、試料にX線を照射し、放出される光電子を検出することで、試料表面における元素および化学結合の情報を取得する分析手法です。
X線光電子分法の概念図

硬X線光電子分光法 (HAXPES)

硬X線光電子分光法 (HAXPES: Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy) は、X線光電子分光分析法 (XPS) と同様に、試料にX線を照射し、放出される光電子を検出することで、試料表面における元素および化学結合の情報を取得する分析手法です。
 
放射光施設における高いエネルギーの硬X線 (Hard X-ray) を利用することで、ラボにおけるXPSよりも深い分析深さ (約30nm) の化学結合の状態を非破壊で把握できます。
多波長光源を用いた非破壊深さ方向分析の概略図

オージェ電子分光法 (AES)

オージェ電子分光法 (AES: Auger Electron Spectroscopy)は、試料に電子線を照射し、放出されるオージェ電子を検出することで、試料表面の特定箇所における元素情報を取得する分析手法です。
 
AESでは、試料表面 (~5nm) の元素 (H, He以外) とその分布状態を調べることがで、Ar⁺スパッタと組み合わせにより深さ方向に対する元素分布も調べることができます。

電子プローブマイクロアナライザー (EPMA)

電子プローブマイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)は、分析対象領域に電子線照射した際に発生する特性X線を検出する点ではEDXと同じですが、EPMAでは複数の波長分散型分光器(WDX:Wave Dispersive X-ray Spectroscopy)を利用するため、高いエネルギー分解能で近接ピークの分離を行ったり、微量成分の定量分析を行うことができます。

エネルギー分散型X線分光法 (SEM-EDX / TEM-EDX)

エネルギー分散型X線分光法(EDX または EDS: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)は、分析対象領域に電子線照射した際に発生する特性X線のエネルギーとその発生回数を計測する方法です。特性X線のエネルギーは、元素に固有な値なので試料を構成する元素の同定を行うことが可能です。また、特性X線の強度から組成に関する情報を得ることができます。
300cyc品負極の断面TEM観察-EDX点分析結果
走査電子顕微鏡 (SEM) をわかりやすく解説 (MST006)
透過電子顕微鏡 (TEM) をわかりやすく解説 (MST007)
 

SEM-EDXを用いた分析事例
SEM、TEMによるLIB正極の形態観察および元素分析 (LIB009)
SEM-EDXを用いた全固体電池の電極均一性評価 (D106)
電池製造過程における金属コンタミネーションの影響解析 (D065)
EDSマッピングによるチップ抵抗不具合の原因調査 (F148)
EDXマッピングによるエンジン油中の異物分析 (F071)
新規導入装置 極低加速電圧走査電子顕微鏡の紹介 (F811)
SEM, TEM, PFIBを用いたSEIの形態総合観察 (D083)
ナトリウムイオン電池正極の活物質の割れおよびNa分布観察 (F520)
ナトリウムイオン電池負極のSEM-EDXによるNa分布観察 (F524)
目的に合わせた4種の元素定性分析 (F023)
 

TEM-EDXを用いた分析事例
正極活物質の表面構造解析 (F515)
TEMによるLIB負極材の断面形態観察 (LIB006)
TEM-EDXによる全固体電池の正極/電解質界面の構造解析 (F508)
AES、TEM-EDXによる全固体電池正極コーティング層の被覆状態評価 (D104)
SEM, TEM, PFIBを用いたSEIの形態総合観察 (D083)
SEM、TEMによるLIB正極の形態観察および元素分析 (LIB009)
高感度TEM-EDXを用いた排ガス浄化触媒の三次元解析 (F106)
AES、TEM-EDX、XPSによるエンジンオイルの劣化前後の摩擦特性、被膜解析 (F129)
 
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電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)

電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy, EELS) とは、入射した電子線が試料内の電子を励起する際に失ったエネルギーを測定することで、試料の組成や元素の結合状態を分析する分光法です。EELSを透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy, TEM)に組み込んだものが、TEM-EELSです。

クライオ観察

通常の観察においては電子顕微鏡 (SEM, TEM) は鏡体内が真空のため、サンプルを乾燥させて導入しなければなりません。しかしながら、乾燥状態では液中における本来の形態や分散状態は把握できません。
 
日産アークでは、液体エタンによる急速凍結技術とクライオ電子顕微鏡技術を活用し、水溶液中での形態や分散状態を観察することが可能です。HAADF像 (高角散乱暗視野像) や EDX (エネルギー分散型X線分光分析)、 EELS (電子エネルギー損失分光法) を併用することにより、元素情報も取得できます。
クライオ技術は、SEM, TEM以外に、EPMA (電子プローブマイクロアナライザー) にも適用可能です。
 
走査電子顕微鏡 (SEM) をわかりやすく解説 (MST006)
透過電子顕微鏡 (TEM) をわかりやすく解説 (MST007)
 

Cryo-SEM / Cryo-TEMをもちいた分析事例
クライオ非暴露TEM-EDX/EELSによるSEIの組成分布観察 (F512)
エタン急速凍結装置を用いた水溶液中リポソームのCryo-TEM観察 (F152)
高感度EDX、高傾斜3Dトモグラフィー、クライオホルダ搭載の高感度TEM分析 (F808)
 
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